未来師弟の日常ひとコマ。


■湯たんぽ



 カレンダーの上ではとっくに春だというのに今日は随分と寒い。
 住居部分は地下にあるから少しはマシだけど、元々人が生活するように出来ていないから断熱素材なんて使われていなくて、やっぱり冷えが忍び寄ってくる。
 ベッドに入って布団を被っていてもまだ寒い。
 もう十歳もとっくに超えたのだから、一人で寝るのは当たり前だど、こんな日はちょっと心許ない。

(悟飯さんもう寝ちゃったかな……)

 修行の時は人一倍厳しいけれど、それ以外の時は人懐っこくて優しい師匠を想う。
 言えば一緒に寝てくれる気がするけれど、トランクスの高いプライドが邪魔をする。



「トランクス、……寝ちゃった?」
「悟飯さん?」

 遠慮がちなノックと、丁度思い出していた人の声に驚く。

「寝てたかい?」
「いえ、まだですけど……どうかしたんですか?」

 部屋に入ってきた悟飯の顔を見れば、切羽詰った緊急事態が起きたという訳でもないらしいが、こんな夜更けにトランクスの私室を訪ねてくる理由がわからない。

「いや、あのさ、今日はほら、寒いだろ?」
「寒いですね」
「だからさ、」
「はい」
「一緒に寝ないか?」
「は?」
「二人で一緒に寝たらあったかいだろ?」
「……悟飯さん、あなたいくつでしたっけ?」

 この師匠は何を言い出すのだろうか。
 二十歳も近い(童顔なのでそうは見えないけれど)というのに、一人で寝れないとでも言うのか。

「……いくつになってもいいだろう。寒いんだから。トランクスだって寒いだろ?」
「まあ寒いですけど……」

 素直に言ってしまったのが不味かった。
 悟飯はそれを了承と取ったらしく、いそいそとトランクスのベッドに潜り込んできた。

(俺、今日この人に思いっきり滝つぼに叩き落されたんだけどな……)

 この昼と今との差はなんなんだろうか。

(しかも枕まで持参しているし)

 滝つぼはそれは冷たく、全身びしょ濡れはきつかった。
 思い出したからか背筋を這う悪寒に、すり、と隣に来た熱源体にトランクスからも躯をすり寄せた。

「ん、なんだトランクスは甘えん坊だな」
「それは悟飯さんじゃないですか……」
「なんで?」
「いえ、いいです。俺の勘違いです」
「そうか?」

 少々デリカシーだとかが不足気味の師匠はトランクスの内心になんてまったく気が付くことはない。一言であっさりと片付けてくれた。
 そして、

「トランクスはあったかいなぁ」
「え、ちょ、ちょっと悟飯さんっ!?」

 擦り寄っていったトランクスは徐に伸びてきた腕に抱き寄せられた。
 そしてそのまま逞しい腕の中に閉じ込められる。

「ご、悟飯さんなにするんですかっ」
「人間湯たんぽ?」
「っっ!?」

 この師匠は言うに事欠いて何を言い出すのか。
 離れようともがくが、未だ力で師匠に及ばないトランクスはどう足掻いても悟飯の腕から抜け出せない。寧ろ益々がっちりと抱き込まれ、悟飯の胸に密着する事態になっていた。
 トランクスがじたばたと奮闘している間に、当の悟飯は早々に夢の国へと旅立ったようだった。
 トランクスの頭上から満足げな寝息がする。

「……寒くて眠れなかったんじゃないの、悟飯さん」

 トランクスはもうなんだか全部が馬鹿馬鹿しくなって力を抜いた。ぱったりと悟飯の胸に躯を預ける。
 夜着越しに伝わる高い体温に安心する。背筋の悪寒もいつのまにか消えていた。

「誰が湯たんぽですか。あなたの方がよっぽどあったかいじゃないですか」

 トランクスもとびきり暖かい湯たんぽに抱きついて目を閉じた。
 寒い夜だけれど、きっとよく眠れるに違いなかった。










おしまい