【精進せよ】
|
人造物建造物はもとより森林もなく、遮るものの乏しい吹きさらしの原野。 見守る者もいないこの場所で今、中空に二人の相対する人影がある。 一人は逆立った金髪に風変わりな黒と白の上下に空色の帯をしめている。今一人は黒髪に鮮やかな山吹色の道着姿。 ゴジータと悟飯だ。 「そろそろ限界か?」 「まだまだこれから、ですっ」 訊ねる声にほぼ反射で声を張る。 「ふぅん、ガキのくせに頑張るじゃないか」 「ガキじゃありませんっ それに手、抜かないでくださいっ!」 「抜いてやらなきゃまた瞬殺しちまいそうだからな。仕方ねえだろ」 確かに荒い息をつく悟飯に対して、ゴジータは如何にも余裕綽々といった態だ。 実際悟飯は彼方此方とかすり傷ではあるが負っているのに対して、ゴジータはほぼ無傷な上に息も乱していない。二人の実力差は歴然だった。 「……随分なことおっしゃいますね」 「事実だろ。それともなにか、お前は俺に勝てるとでも思っているのか? 一昨日だって早々に沈められて無様を晒したのを忘れたのか? とんだ鳥頭だな」 「き、今日はきっと凌いでみせますっ!」 悟飯の言葉にゴジータは渋い顔をする。 (馬鹿が。凌ぐよりどうしたら勝てるか考えろよ。正面から受けるのだけが手じゃないだろうが) 本来悟飯はもっと柔軟な思考と戦闘方法を持っている。 しかし今は頭で勝てないと決めつけているのか、ゴジータに勝つことよりも認めてもらうことに重さを置いてしまってようだ。それではいつまで経っても勝てるはずがないというのに。 (……まあ素直なんだろうが、戦闘においては命取りになるぞ) 「では行かせて頂きますっ!」 悟飯の掛け声と共に組手が再開された。 けれど先ほどのゴジータの言葉が影響しているのか、調子の出ない悟飯は防戦一方になっている。 気弾を放って出来た隙に、ゴジータの三段蹴りが見事に決まり吹き飛ばされた。 「ぁ、ぐっ……」 「ほれ見ろ。だからハンデをやるって言ってんだ」 「余計、な……お世話、ですっ」 「そうだな俺は腕を一切使わない。これでいくか」 「なっ!?」 悟飯が隻腕なことからか、両腕を使わないと勝手に宣言したゴジータに、悟飯のなけなしのプライドが刺激された。 「馬鹿にしないで下さいっ」 「馬鹿にはしてないがな。俺の本気が欲しいなら、お前がその手で引き出してみせろよ」 腹の底から沸き起こった熱が全身を駆け巡る。 腕組みをして浮かぶゴジータへ素早く迫り、その勢いのまま突きを繰り出す。間髪入れず、一手二手……と足技も織り混ぜ、続けざまに攻撃するも全て見事な体捌きによってかわされてしまう。腕どころか脚さえも使わせられない己の不甲斐なさに悟飯は歯噛みする。 視界が赤く染まった。 バチッと二人の極近い間で気が弾け距離が開く。 悟飯の髪が逆立ちゴジータと同じ金髪へと変わる。超化した悟飯を目にして僅か、ゴジータの目が細められた。 額を基点にし、翳した掌に気が集められていく。 「魔閃光ッッ!」 光の帯がゴジータを飲み込もうと一直線に走る。 師譲りの必殺技はしかし相手の両腕でによって受け止められ無残に弾けた。 が、その時には既にゴジータの懐深く入っている。 きれいに割れた腹筋に懇親の力で拳を叩き込んだ。 吹き飛ばされた身体が地面を削り、受け止めた岩を瓦礫にして漸く止まる。 「はっはっはっ……」 躯に空気が足りない。 浅く早い息を整えようとする悟飯の視線の先で、ゴジータが砂埃と共に起き上がるのが見えた。 「ふん、少しはマシになってきたか」 弾みで切ってしまった口から血を唾と共に吐き出す。 ゆらり、と金色の気が一層鮮やかに立ち上り、悟飯の視界からゴジータ掻き消える。 相手を探ろうとした時には既に気配が間近にあった。 反射で盾にした右腕に重い衝撃。 跳ね飛ばされながら、軋む骨に歯を食いしばって体勢を立て直す間もなく、上空から気弾が連続して悟飯を追い立てる。全て紙一重で避け大きく間合いをとった。 「どうした、こいよ?」 ゴジータの挑発と言うよりは、もっと素直な戦いを望む声に悟飯は却って攻めあぐねる。 先程の一撃が彼の戦闘意欲に火を点けてしまったらしい。望んだことではあるが、やはり背を緊張と恐怖で汗が流れる。 「来ないならこっちから行くぞ」 宣言に悟飯は丹田に力を込め、腰をやや落として半身に構えた。 互いの位置を入れ替えながらの激しい肉弾戦に突入する。超化の影響か、昂ぶり研ぎ澄まされた気構えからか、先ほどのように一方的にやり込められることはなっていない。 「え、! わぁっ!?」 「なっ!」 と、あろうことか悟飯が足元の瓦礫を踏み外しバランスを崩した。そのまま組み合っていたゴジータを巻き込んでみっともなく倒れ込む。 「つッ、う……」 「おい、いつまでそうしてるんだ」 「へ? うわあぁぁぁっっ! 気が付けば唇が触れそうなほど近くにゴジータの不機嫌な顔があった。 「す、すみませんっっ!」 自分の体勢を改めて確認するまでもなく、押し倒した格好になっていた躯から立ち上がる。 (あ、あれ? 何か今、口に柔らかい感触がしたような?) 驚きに纏まらない思考を抱えたまま慌てて退いた悟飯に続き、ゴジータも立ち上がり躯の土埃を払い落とす。 「あ、あの、ゴジータさん、俺……」 「悟飯」 「は、はいっ!」 申し訳なさに俯きがちになっていた顔をあげれば、珍しく綺麗に笑うゴジータの顔が目の前にがあった。 一層どぎまぎする悟飯の傷が残る頬に、戦う者の少し荒れた指先が触れた。更に悟飯の心臓が限界まで早くなる。 顔もさぞ赤くなっていることだろう。 思考も行動も停止状態の悟飯の胸倉が掴まれ、そのまま腕一本で軽々と持ち上げられたと思ったら手加減なしで湖に叩き込まれた。 派手な水柱があがる。 「そこで頭を冷やせ」 極寒の声音での命令は、しかし湖に沈んでいく悟飯の耳には届かなかった。 水を吸った道着が重く躯に纏わりつくのに難儀しながら、どうにか岸に這い上がった悟飯だが其処までだった。 空気を求めて躯を反転させる。足はとうとう水に浸かったままだ。 「……おい悟飯。なんだ落ちたか」 静かになった悟飯にゴジータがゆっくりと近づいた。 こつ、と靴先で超化の解けた黒髪の頭を小突く。腕組みをしたまま数瞬頭を捻る。 ストンと、力を抜いて気を失ったままの悟飯の隣に落ち着いた。 寝転がりながら見上げた空は、ゴジータの心と同じように青く晴れ渡っていた。 end... |
後書き 間さんから頂いたお題はゴジータさんと未来悟飯さんでケンカでしたが、 この二人でケンカだと未来さん腕力は勿論口でも勝負にならなさそうだし、 意地張って拗ねてみせた所でゴジータさんなら放置な気がして、どうにも流れを考えるのが難く、 色々考えたものの、結局お題からは外れてしまいました。申し訳ありません。 一応取っ組み合いのケンカではありませんが、ゴジータさんに抗う未来さんと言うことでお許し下さいませ。 -ちゃっかり管理人コメント- 宿題無事に賜りました! ムチャ振りに答えてくださりありがとうございます!!! 管理人だけ超至福だ・・・・・・(゚▽゚*) |