ご注意書
・現代悟飯君と未来悟飯さんが兄弟設定です。
・タレ飯飯ですが、書き手の好みによりやや現飯→未来飯っぽいです。
・ほぼ現代悟飯視点です。



【絡んだ糸はほどけずに】





 悪趣味一歩手前の幾重にもドレープが作られ、天井から垂れ下がる、分厚い濃紫のカーテンが部屋を外界と切り離している。まるで舞台の緞帳<どんちょう>のようだ。ならばこの状況は劇なのだろうか。
 否。
 わかっている。こんなものただの思考の逃避だ。



 ボク逹三人がいる赤い天鵞絨のソファには、金糸で花鳥が描かれた目を引くシノワズリの布がかけらている。天鵞絨は肌触りは良いけれど、今はそれを堪能するどころではない。
 ボクと兄の雇用主と言うよりは飼い主か所有者のような男が、まるで王公貴族のようにソファ真ん中に陣取り、ボク逹兄弟を両側に侍らせていた。
 そうしてお酒の酌をさせられているだけならばまだいいのだが、男の片腕は兄を引き寄せて、大きくはだけさせたチャイナ服の胸元へ手を差し入れ、すっかり敏感にさせられた胸の頂を責めている。
 兄を苦しめる傍若無人な手をどうにかしたいけれど、ボクはボクで男のもう一方の手に顎を取られ、何を考えているか窺いしれない闇色の眸に射ぬかれて動けないでいた。
 情けないことだけど、何せ男の顔はボク逹の大切な肉親に驚くほどそっくりなのだ。こんな風に息が掛かるほど間近で見つめられると殊更その事実を思い知らされてしまう。
 しかも下半身は彼の脚を跨がされた形のまま、股間に微妙な刺激を与えられ続けていた。布地越しの刺激は緩やかでもどかしい。いっそもっと、とねだってしまいそうになる。
 男――ターレス――にここへ連れて来られて、彼に奉仕することを覚えさせられた。
 奉仕だけではない、調教と言う名を借りて無理矢理に犯された。



 何故ボク達兄弟がこんな状況に陥っているか。勿論望んだことではない。
 悪夢のはじまりはもう二月も前になるだろうか。
 祖父が博打で途方もない金額の借金を拵えたのだ。
 更に悪いことというのは重なるものなのか、相手方と話を付けに行く、と行って出かけた祖父が拳銃で撃たれるという事件が起きた。
 元々祖父は世間から所謂ヤクザと言われることを生業としている人だったので、一般人はまずお目にかかることのない、拳銃や日本刀と言った危険な物もそれほど遠い世界の話ではない。
 犯人は捕まっておらず撃たれた祖父の意識も戻らない現状では断言は出来ないが、おそらく事件は祖父が博打で負った借金と関係があるのでは、と言うのがボクと兄の共通の認識だ。
 だがそう考えたとしてもボク逹に調べる術は何もなかった。
 祖父がボク逹がヤクザの世界に近づくのを嫌っていたこともあって、そちら関係の知り合いは一人もいない。
 しかし当事者の祖父は入院中、そして事情も知らずとも借金はしっかりとある。
 残された借金はとてもボクらが支払える金額ではなく、困り果てていた所に現れたのがターレスだった。



 祖父の昔馴染みだと言うターレスは、自分のところで働いてくれるのなら借金を肩代わりすると持ちかけてきた。
 まったく不審を抱かなかった訳ではないが、ボク逹に選択肢は他になかった。だけどやはりボク逹はあまりに未熟で世間知らずだった。
 当初彼から提案された仕事は、会社を経営しているという彼の身辺警護を兼ねた付き人だった。
 兄もボクも幼少から武道を習っていて、ある程度の実力は身につけていると自負している。
 それならどうにか出来るだろうと男の世話になることを決めた。
 雑事を片付け、男が仕事をしやすいようにサポートをした。けれどこんなものは建前でしかない。
 男がボク逹を連れて来た本当の目的はボク逹の躯だった。二人とも女性ではないのだ、まさかとは思ったものの、男は性別問わずどちらでもいける性質らしい。
 夜ごと男は好き勝手にボク逹を玩具のように弄び犯した。
 そんな無体な真似をされれば普通だったら抵抗する。
 ボクだって兄には及ばないものの、驕りではなく並み以上の武道の腕を持っている自信があるし、身内の欲目ではなく兄は本当に強い。
 けれどターレスもまた強かった。
 強いと言うか、兄とは強さの質が違うと言った方がいいだろうか。相手の力を利用して技を返す、そんな戦い方を得意としているようだった。本来身辺警護など必要ないだろう。
 そんなところひとつとってみても、ボク達を連れて来たのが最初からそのつもりだったのを見せ付けられるようで、男の悪辣さとボク逹の浅はかさを思い知らされれ打ちのめされた。
 ボクは敵わずとも兄ならばもしかしたら男に力で勝てるかもしれない。しかし兄は強くはあったが、また過ぎるほどに優しい人でもあったから、近所の人に預けた末の弟の安全をちらつかせられたら抵抗などできやしない。
 話を持ちかけられた当初、兄は自分一人が行くと言ったのだが、ボクが兄ひとりに押し付ける訳には行かないと強引について来たのだ。
 結果としてこの選択がまだマシだったのか、或いは更に悪い方へ運んでしまったのか判断は難しい。
 ボクが一緒にいることで、互いが互いに対しての人質として機能してしまう。
 まったく悪魔が考えたのようにうまくできた枷だった。
 もっとも兄は悪魔相手でも筋を通す、律儀である意味頑固な人だから、末の弟のことやボクがいなくとも逃げることなく借金の返済を続けるだろう。理不尽だとわかった上で、だ。
 だからせめてボクが一緒にいて支え合えたらと思っている。
 ボクは兄の枷で救いだろうし逆もまた然りだった。男は笑うに違いないが。



――夜。
 男に呼ばれる時は兄だけの時もボクだけの時も、また二人一緒の時もあった。無論ボク逹に拒否や選択権などない。
 この夜は兄だけが呼ばれた。ボクは続きの部屋で、向こうとこちらを隔てる扉の前に座って躯を預けている。
 扉越しに伝わるのは動く人の気配。内容までは聞き取れないが何か話しているのはわかる。



「――まだバーダックを待っているのか?」
「あの人は必ず来てくれる」
「随分と健気なことだ。まああいつもしぶといからな。まともにやったら並の奴らじゃ相手にならないときてる。おかげでこっちの損害もかなりのものだった」

 含みを持たせたターレスの言葉に、ベッドの端に腰を下ろしていた悟飯の顔色が変る。
 祖父が襲われた事件に抱いていた疑念が蘇った。
 極力視界に入れないようにしていたすぐ傍の男に視線を合わす。

「ま、さか、お前がやったのかっ!?」
「肋の二、三本で済ます気はなかったからな。三途の川を渉らなかったのは流石ってとこか?」
「き、さまあぁっっ!!」

 激情と共に繰り出された拳をターレスはなんなく避けた。
 取った手首を攻撃の勢いを借りて引くと、やすやすと悟飯の躯を反転させてベッドへ押さえつける。

「くっ」
「おっと、じゃじゃ馬なのは好みだが、あまりオイタが過ぎると躾けなおさなきゃならなくなるぜ。お前はもちろん弟の方もな」

 握ったままの拳は再度相手に向けられることなく下げられた。だが力までは抜けず、ぶるぶると治まらない怒りで震える。

「……なぜ弟まで、巻き込んだ? 玩具は……俺ひとりいれば十分だろう」
「巻き込んだ? 人聞きの悪いこと言うなよ。俺は選ばせてやっただろ。来るって決めたのはお前の弟だ。笑いたくなるほど麗しい兄弟愛だな」
「下衆がっ!」
「褒め言葉としてもらっておいてやるよ。さあて気が済んだらはじめようぜ。今日も可愛がってやるからお前も存分に楽しめ」

 言いながらぐりり、と背後から割らせた股の間を膝で刺激する。
 悟飯が身につけていた服に手をかけ、一枚一枚殊更ゆっくりと取りあげていく。
 見ている前で脱げ、と命じられることも多かったが、今日は自らの手で脱がすことにしたようだった。どちらにしろ明るい照明の下、羞恥を煽られる行為だった。
 悟飯は堪らない現実にぎゅっと瞳を瞑った。





 動く気配はあるものの、扉から聞こえていた声が遠くなった。
 扉の向こうであの男が兄にしているだろうおぞましいことを考えると、いてもたってもいられないが、ボクにはこの扉を壊して兄を助け出す手段がない。
 最初の時からボクは大好きな兄に守られてばかりだ。
 新しいペットに対する躾のつもりもあったのだろう、男は初めての時ボク達二人を一緒に犯そうとした。
 けれど兄がボクを庇い、男は兄の懇願を受け入れた。優しさや寛容さからではない。男はそれよりももっと非道なことをした。
 兄を犯すさまをボクに見せつけたのだ。あの光景をボクは忘れることができない――



 明かりの落とされていない室内は、残酷なありさまを余すところなく曝け出している。
 身を捻り嫌がるところを押さえつけられ、半ば破られながら服を脱がされていく兄と、自らも服を脱ぎしてながら兄を支配しようとする男。

「やめろっ! 悟飯っ目をつむっているんだっ!」
「いや駄目だ。ちゃんと目を開けてお前の分まで犯される兄を見ていろ」

 兄と男の相反する命令がボクを打つ。
 男に従おうと考えた訳ではない。
 だが手足を拘束され椅子に座らされた状態で、ただボクの眸は壊れたように開きっぱなしだった。
 瞬きも忘れて兄が手ひどく犯されていくのを阿呆のように見ていた。

 男が乱暴な愛撫で行為に不慣れな躯を翻弄していく。
 形を変え始めた兄のモノを、更に追い詰めようと緩急をつけて扱く。
 拒絶の中、相手を罵倒する声がだんだんと甘い色を帯び、零れる息遣いが浅く荒くなる。
 髪を掻き揚げる仕草さえ卑猥に見える男の手。
 薔薇色に染まる兄の肌。
 零れた兄の蜜を掬った指を、声を漏らすまいと食いしばった口に強引に押し込む。
 碌に慣らしもせずに、凶器でしかない怒張した雄を容赦なく秘部に突き入れた。
 押し殺した悲鳴。
 噛み締めた唇、力を込めすぎて白く色を失った拳。
 ひきつり戦慄く躯が兄が受けた衝撃を物語る。
 男は繋がったまま萎えた兄のモノを強引に追い上げた。
 果てて気を失った兄から凶器を抜くと、男は汗に光る肌もそのままに椅子に枷で繋がれたボクの方へやってきた。
 筋肉がバランスよくついた躯が目に飛び込んでくる。
 恥じらいもなく一糸纏わぬままの姿だが、場違いにも見惚れてしまった。

「どうだったよ、お兄ちゃんの痴態は。興奮しただろ?」
「ふ、ふっざけるなっ!」

 ボクは一瞬にして頭に血が上るのを感じた。
 立ち上がることは出来ないものの、繋がれた重厚な椅子がガタと揺れる。

「へえ、ここをこんなにしてるのに?」

 男の手が前に触れて、ボクは初めて自分のモノが屹立していることに気づいた。
 燃えるような怒りに一瞬にして冷水をかけられた気分だった。

「な、んで――」
「なんだ本当に気づいてなかったのか、お前」
「嘘だ……」
「現実<ほんと>だよ。で、どうする? 次もこうやって観客でいるか? それとも混ぜて欲しいか? 俺はどちらでも構わないぜ。あいつは見られた方が感じるタイプみたいだからな。お前が見ていれば、それだけでよく啼いてくれるだろうよ」

 男がベッドの上で欲に濡れ気を失ったままの兄へ視線を向ける。獲物を前にした肉食獣のような視線だ。
 声を出そうとしたら口の中はからからだった。なんとか唾を飲み込み張り付いた舌を動かして、回らない頭で言葉を探す。

「兄さん、ひとりを、……こんな目に合わせられない」
「くくっ、いいぜ、お前もここまで堕ちてこい。俺を楽しませてみろ」

 ボクは自ら望んで悪夢に飛び込んだ。



 けれど世界と言うものは流れる川のように止まらず、刻一刻と流転していくものだ。
 ターレスが酷いだけの男なら良かったのだ。ただ憎しみだけを抱いていられた。
 けれど、ふっと気紛れのように見せる彼の優しさに戸惑ったのは事実だし、冷酷な手腕を発揮してボク達を閉じ込めた、隙など欠片もないと思っていた男が私生活ではかなりいい加減で、だらしないことを共に過ごす時間を重ねていくうちに知ることになった。
 酒がよほど好きなのか食事もとらず過ぎるほどに飲むし、高級なスーツが皺になるのも頓着しないで寝台やソファに寝転がる。
 それを注意してやっと脱いだら脱いだで、今度は脱ぎっぱなしだ。末の弟と同レベルもいいところだった。
 僕らはそんな男に世話焼き気質を発揮して、命じられもしないのについつい彼是手を出してしまう。
 情が湧くと言うのならまさにこれがそうだろう。まったくもって不本意だが。
 兄もまたボクと同じ心情のようだった。
 無理矢理に囚われた身として軽々しく口には出来ないが、確かにボク逹はターレスに心を沿わせかけている。
 ボク達は形容しがたいものを抱えたまま、囚われの時を過ごしていった。
 そして今夜も兄とボクを呼ばわる男の声がする。
 複雑に絡みあうそれぞれの思惑は、まだ暫くはほどけそうにない。









end...








後書き
チャットにて素敵なお三方が描かれていた萌え滾る絵を基に、挑戦してみたら随分と迷走してしまいました。
どうしてこうなった自分、と問いただしたいです。 お目汚し失礼いたしました。




-ちゃっかり管理人コメント-
毎度毎度滾るお話を具現化していただいてありがとうございます!
魔の手に落ちた兄弟の行く末が、あああとっても気になる・・・・・・。

おのれターレスのくせに(゚▽゚)うらやまs 恨めしい!! お爺ちゃん早く復活して欲しいものです。